ホームプレゼンテーション「痛み」に対する鏡を使った治療法

鏡を使った治療法

鏡を使った治療法

大阪大学医学部附属病院
疼痛医療センター(麻酔科)
住谷 昌彦


骨折や捻挫など外傷時には痛みを伴います。痛みは非常に辛い感覚で、「痛み感覚なんては要らない」と思った経験は誰にでも一度や二度はあるのではないでしょうか?
では、なぜ痛みという感覚は生体に備えられているのでしょうか?

痛みは身体の危険を知らせるための警告として存在しています。仮に痛みがなければ、外傷などの後に患部を安静にすることを怠りがちになり身体の修復が非常に遅れてしまうことは容易に想像できます。痛みは生体にとって非常に重要な感覚なのです。

病院では外傷後などの痛みに対しては患部の安静の処置とともに、いわゆる痛み止め薬を処方しています。痛み止め薬( NSAIDs:非ステロイド抗炎症薬 )を飲むと、しばらしくて痛みが治まり薬効が切れてきた頃に痛みが再燃するという経過をたどり、外傷などが治ってくる(組織修復)とともに痛みも軽減していくのが普通です。

しかし、神経に傷が付いたり、体の一部分を失われた患者さんの場合には身体組織が治っているにも関わらず痛み(神経因性疼痛)が続くことがあります。

このような痛み(神経因性疼痛)に対しては、外傷など身体組織が障害されているときに用いられる痛み止め薬( NSAIDs ) はほとんど効果がなく、モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬も効果は限定的です。神経因性疼痛に対しては、うつ病の治療として用いられていた抗うつ薬や痙攣の治療薬の有効性が最も高いと言われています。
“最も有効性が高い”と言っても痛みが半減する確率は50%以下と報告されており、神経因性疼痛の治療は非常に難しいのが現状です。

神経因性疼痛の治療には薬物療法以外にも神経ブロックや電気刺激療法など手術など様々なものが知られていますが、これらの効果もまだ充分ではありません。

そこで我々は、副作用がなく自宅で簡単に行える鏡を用いた治療法に注目しました。

なぜ、鏡を用いた治療法に注目しているかについてですが、そもそも神経が傷付いた患者さん、体の一部分を失われた患者さん、あるいは脳卒中の患者さんなどでは脳の中の自分の体のイメージが障害されています。この「体のイメージ」が障害されることによって、「痛み」が引き起こされると考えられており、鏡を使った治療法(鏡療法)は、障害された「体のイメージ」を元に戻す治療法です。

鏡に映った姿を見ることで、脳に正しい「体のイメージ」を刷り込む、頭のトレーニングと言えます。

「方法」

1. 痛みのある体の、反対側 の腕あるいは足を鏡に映します。

2.鏡の中の手あるいは足を動かすつもりで、痛くない方の手・足を動かします。

常に鏡の中の手・足を見て、鏡の中の手・足を動かそうとしながら行います。

痛みのある方の腕・足を動かしても痛くない場合は、鏡を見ながら運動する時に、実際の痛みがある腕・足も同時に動かします。動かそうとして痛みが出る場合は、まず鏡の中の腕・足だけを動かします。

3.この運動を1日1~2回 (できれば寝る前に)、5~15分行います。

ただ単に、鏡をのぞいているだけでは意味がありません。鏡の中の腕・足を動かすことに集中できる時間だけ行います。

4.この運動を毎日行うと、痛みが徐々に軽減していきます。

この鏡療法を行った直後から痛みが和らぐことはありません。筋肉トレーニングを1日だけしても筋肉がつかないのと同じように、毎日繰り返し行って初めて効果があるようです。

早ければ治療を開始してから3週間目頃から徐々に痛みが治まっていきます。

注意点

  • 鏡療法は、患者さんに暗示をかけることによって痛みを和らげる治療ではありません。
  • 鏡を見ながらスポーツのトレーニング(例:野球の素振り)を行ったほうが、より上手にスポーツを行うことが出来るようになることが知られています。このように、鏡を通して自分の姿を見ることは、脳に対して非常に大きな影響を与えます。
  • 実際の自分の体と心(脳)の中の「体のイメージ」が異なる場合には、脳が混乱してしまい、その結果「痛み」を引き起こすことが考えられています。鏡を見ることによって、「体のイメージ」を正しく認識し脳に覚えこませることが、鏡療法の目的です。
  • 鏡療法の効果には個人差があります。多くの患者さんでは3週間目頃から痛みが和らぎ始めますが、もし3週間を過ぎて効果が現れなくても諦めず鏡療法を続けることをお勧めします。また残念ながら鏡治療によって痛みが治まらない方もいらっしゃいます。
  • この治療法はまだ研究段階の治療法です。従来から行われている治療法(内服薬など)と併用することをお薦めしていますので、疼痛診療の専門医療機関を通院することをお勧めします。

活動紹介

我々の診療グループでは、10年以上内戦が続き地雷や爆撃などで四肢を失ったり、神経が傷ついて神経因性疼痛で困っている患者さんが多い東欧のボスニア・ヘルツェゴビナで、JICA(国際協力機構)を通じて鏡療法をはじめとする治療協力を行いました(2006年)。


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